危機一髪

ここ数ヶ月の間、上からやたらと床を踏み鳴らすような音がする。夜中でもお構いなし。
この時点で普通の人間ではないので、出向いたら逆に殺されかねない。という訳で今日も我慢してると、

「ドン!!」「ドン!!!」

今度は明らかに横から壁を叩く音。隣の人は、この騒音の主がうちだと思っているのだろうか??
とか考えてるうちに今度はインターホンが鳴る。

「隣のもんだ。ちょっと表出ろ。」

これで確実。明らかにうちから出てる音だと隣人に誤解されてしまっている。
ドア開けていきなり「うちじゃないです!!」とか弁解すると余計に怪しまれてしまう恐れがあるし、
普通にしてて犯人にされ殴られでもしたら最悪なので、半ば判ってはいたが一応訪問の意図を聞き、
かなり気を落ち着けた口調で「うちじゃないです」と言った。(内心は勢いで殴ってくるのではと必死)
隣人もうちの中を見た段階ですぐに誤解を解いたよう。「たぶん上の人じゃないかと・・・」と言うと、

「分かった。じゃあ行ってみるわ。ごめんなさっきは。壁叩いたりして。ここじゃないかと思ったから。」

と言い残し、上の階へと向かって行った。それから10分くらい後、上からの音はピタリと止まった。
“夜の12時に隣に向かって壁叩いといて「ごめん」の一言で終わりかよ!?”と思ったりしたが、
隣人の怒りを察して心の中で思うに止めておいた。

少しでも発言や態度をミスっていれば、犯人にされただけでなくボコボコにされてる所だっただけに、
相手がちゃんとこっちの話を聞いてくれる人(おっさん)だっただけでも運が良かったのかもしれない。
こっちの意見も何も聞かず、犯人と決め付けていきなり殴ってくるような人じゃないかと一瞬思ったので、
玄関を開ける瞬間が緊張のピークだった。良かった。本当に。