暗黒時代との分岐点

大学時代、毎日放送(TBS系列)でVHSにて録画していた“タイガース優勝特番”を何となくキャプチャした。
2002年シーズン突入前に放送されたこの番組では、当時オープン戦で神懸り的に勝ちまくっていた阪神を受けて、在阪局であるMBSが思いっきり先走りして「今年(2002年)は阪神タイガースは間違いなく優勝する」コンセプトの元、過去の名場面は歴代助っ人の映像付きで放送されていた。こういった、“(現実的には実現性に非常に乏しいけど)阪神タイガース優勝特番”といった企画は、例えオープン戦でも阪神がこれまでにないような強さを見せたり、組閣や選手に新しい風が吹いた時にはどこかの局で必ず行われたものだったのだ。今回改めてキャプチャしたこの番組は、阪神ネタでこういった「遊び」をファンも受け入れる事のできた、現在のところ最終期の素材ではないだろうか。

事実、この番組の期待通り、2002年シーズン開幕7連勝した勢いで6月頃まで首位を独走。最終的にも1994年以来8年ぶりの4位と、毎年のように何か波立っても最終的には下位に低迷して笑いとして片付けられていた阪神が目に見えて強くなり始めたことから、これ以降「阪神の弱さを基本とした誇大妄想思想」は阪神ファンや単純の笑いのネタとしても通用しなくなってしまった。その翌年には優勝まで到達し、以降は常に優勝争いに絡む事ができる強さにまで成長した事もあり、こういったネタは今や、再び阪神が万年最下位の球団に成り下がらない限り許されたものではないだろう。

基本的に阪神が低迷していた1990年代の中で唯一Aクラスになり、ヤクルトとシーズン残り2試合まで優勝争いを演じた1992年から、本格的に「野球」というものを認識するとともに、それまでの「親に野球場(記憶しているのは甲子園球場、阪急西宮スタジアムグリーンスタジアム神戸)に連れられてるから自分も見る」ではなく、自分の意志で阪神ファンとしての自覚を持ち始めたが、そこから現在のような戦力の骨子が出来上がるまでの10年間、自分には「阪神=弱者」「勝つ=まぐれ」というイメージが完全に植え付けられてしまったために、今でもそのフィルターを通して阪神の戦いを見てしまうし、またそれに楽しみを感じてしまっている。「勝つ=まぐれ」のイメージは最近5年間で急速に抜けつつあるが「阪神=弱者」というイメージは全く自分の中から抜ける気配がない。どれだけ頑張ったって、中日のように堅実(=※あくまで個人の感想であります)には勝てないし、巨人のように毎年ドンと看板選手を集めて勢いを付けられるようなチームでもない。今あるだけの戦力というギリギリの局面で戦って、どうにか強者に打ち勝って実績を積み重ねるというスタイルこそが阪神。そういった図式を、ファンに“入信”してから否が応でも受け入れなければ、ファンとして認められない節すらあったように感じるほど、当時の阪神は明らかに弱者の立場であったのだが、今では非常にマニアック・前時代的な楽しみ方である。

個人的には2002年以降、それまでつるんでいた観戦メンバーの社会人化などもあって一度も阪神戦はおろか野球自体観戦していない。今使っている阪神の選手のテーマも桧山以外はほとんど分からないような状態。今の阪神の実力をフルに受け入れる事ができないのは、それが原因なのかもしれない。結果だけを見てすべてを把握できるほど野球はつまらないスポーツではない。